HAKU 北村 コラム 61「サインの話」
普段は靴職人、北村です。
有名人ってサインとかするじゃないですか?
あとファンイベントで私物プレゼントとかもありますね。
憧れの人の直筆サインや実生活で使っていた私物……ファンからしたら喉から手が出るほど欲しい、まさに「お宝」だと思います。
サインや私物を提供する有名人の方も、ファンのためを思ってやってくれていることでしょう。
しかーし! 世の中にはそんな善意を踏みにじる人間がいるのです!
ファンだと偽りそれらを入手、個人売買アプリで売りさばき、利益を得ようとする奴らが!
もしも僕が有名人だとして、
「ファンです! サインお願いします!」
って言われたら、
「いいですよ(にっこり)」
ってサインしちゃうと思うんですよ。
(大切にしてくれたら嬉しいなあ……)
って思いながらね。
な・の・に!
後日ネット見たらさ、あの時のサインが売られちゃってるの!
悲しいでしょ! こんなの!
(あの野郎……最初から売る気でサイン求めてきやがったのか……)
とか考えちゃうでしょうよ!
(人の善意を利用して金儲けとは……許せん!)
ってなっても仕方がないと思いませんかああ!!
この転売野郎がああ!! 抹殺してやるうう!!
うおおおおおおおおおおお!!!!!!!
…………………
……………
………
…
あれから一週間が経った。
ショックを受けた私の心の中には、もう一人の自分(マインドBとしよう)が現れていた。マインドBが私に問いかけてくる。
B「なあ、サインを転売するのは悪いことか?」
私「違法ではない……と思う」
B「じゃあなんでお前は悲しくなったり、不快になったりするんだ?」
私「ファンだと思ってたのにそうじゃなかった。私利私欲のために利用された、騙された……そんな気持ちになったんだ」
B「でもよお、お前が5秒で書いたサインのおかげで、一人の人間が金を得ることができたぞ。あのサイン、メ○カリで1万で売れてたじゃねえか」
私「これでも僕はそこそこ有名人だからね……」
B「 有名人ってのはすげえな! ささっと書いた文字が1万円になるなんて! まるで錬金術みたいじゃねえか!」
私「はは……」
B「お前さ、もっともっとたくさんサインを配ったらどうだ? ファンは喜ぶし、そうじゃない無いやつらも現金に換えて大喜びだ!」
私「いや、それはちょっと……」
B「何でだ? 他人が幸せになるのは嫌か?」
私「そういうわけじゃ……」
B「じゃあいいじゃねえか! サインを書きまくればよお、ファンは喜ぶ、お金は生まれる、いいことしか無えんだ! 」
私「いいことしか無いって……僕はただ働きじゃないか」
B「確かにお前の労働は少ーしばかり増えるけどよ、それでも1枚につき5秒だろ? 10枚書いても50秒だぜ?! 世の中のためにそれくらいのボランティアはしてもいいんじゃねえのか? これは有名人のお前にしかできないことなんだぜ!」
私「僕にしかできない……」
B「お前は幸せを作り出せる。力を持った人間なんだよ」
私「力……」
B「ああそうさ。力を持った人間は、それを世の中のために使わなければならない」
私「確かにお前の言う通りなのかもしれない。転売? そんな小さなことに捕らわれる必要なんてなかったんだ。やるよ! 1日10枚、いや……100枚だ! 100枚のサインを配りまくってやる!」
B「おお! つまりお前は毎日100万円分の価値を生み出し、無償で世の中に提供するってことだ! まさに神……神の行いだぞ! これはあああ!!!」
私「やってやるぜえ!!! うおおおおお!!!」
……こうして私は毎日サインを書いた。
1日100枚、欠かすことなく続けた。
世の中は幸せになったか?
いや、そうはならなかった。
市場にサインが溢れたせいで、価値が暴落してしまったのだ。
個人売買アプリでは私のサインが大量に出品されている……が、購入する者など誰もいない。そりゃそうだ、毎日100枚新しいサインが世の中に投入されるのだから。そのうち転売しようとする人間自体いなくなるだろう。
こうして私は「転売を無くす」という当初の望みを達成したのだった……
以上、全く有名人じゃない北村がお送りしました。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。