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HAKU 北村 コラム 42「転生したら×××××だったの話」

普段は靴職人、北村です。

今回は小説を書いたので読んでください!
ではスタート!

(ここはどこだ……)

凍えるほど寒い暗黒の中で芽生えた一つの自我、それがオレだった。

(寒い……何も……見えない……)

この世界はただただ深い闇に包まれていた。
何も無い空間に自分だけが漂っている感覚。
そんな虚無の空間を漂うこと数分後、誰かの声が聞こえた気がした。

「あのぅ……誰かいますか……?」

はっきりとは聞こえないがすぐ隣から声がする。
壁を何枚か隔てているかのような、こもった声だ。

「はい、います! あの……あなたは……?」

恐る恐る聞いてみる。すると相手も同じ質問を返してきた。どうやら同じ状況にいるようだ。
しかし困ったことに相手の姿が見えないため会話が成立しない。

そこでまずは自分のことを話すことにした。

「オレ、君島と言います」とりあえず名前を名乗ってみる。

「あっ……私は、城見……です」女性の声がそう答えてくれた。

やはり自分と同じ境遇にあるらしい。
それからお互いの状況を確認しあった結果、ここが全く知らない場所であることだけは分かった。

ただそれ以上は何も分からないということが分かっただけだった。

しばらく沈黙の時間が流れる。
そして気まずい空気に耐えかねて話しかけようとしたそのとき、

「おーい……誰かおるんか?」

城見さんとは違う方向から声がした。年配の男性の声が聞こえる。

「だ、誰ですか……?」

「すまんすまん、驚かせてしもうたな。わしは江口っちゅうもんや。君、誰かと話してなかったか? わしもな、全く同じ状況なんや」

どうやら他にも人がいたらしい。しかも関西弁を使う謎の男ときた。

「君島さん? どうしたんですか? 誰と話してるんですか?」

城見さんが不安そうな声で尋ねてきた。どうやら彼女のところには謎の関西人の声は届いていないらしい。

「ああ、すみません。どうやらもうひとり人がいるようで、その方と話していました。江口さんという男性の方のようです」

今度は江口さんが語りかける。

「ところで君は何者なんや? 声を聞く限りまだ若そうやけど? 学生か?」

その言葉を聞いてハッとした。
そうだ、確かにオレは大学生……いつものように学校へ向かっていて、その途中で

「……車にはねられた」

思い出した。オレは事故にあったのだ。

「なんやて!? 車に!? そうか……気の毒やったな……」

「江口さんは何か覚えていますか?」

「わしは……そうや、末期のガンで……死ぬ寸前やったんや……」

「ええっ!? 今は大丈夫なんですか!?」

「ああ、不思議と健康そのものや……」

江口さんとの会話の内容を城見さんにも伝えた。こんな状況ではなるべく情報を共有した方が良いと思ったからだ。

「あの……」

城見さんが震えるような声で話し出した。

「私……マンションの屋上から飛び降りたんです……死のうと思って……」

「……自殺ってことですか? 3人とも最後の記憶は死の直前……それじゃあここは死後の世界ってことなのか……?」

「いいえ、多分違うと思います……。だって私たち死んでませんし……」

「じゃあどういうことですか? 死んだ人間が生き返ることなんてあるんでしょうか?」

オレの疑問に対して、城見さんは答えてはくれなかった。

……それからどれくらいの時間が経っただろう。暗闇の中では分かりようもないが、1時間くらいは経ったような気がする。

「……君島さん! 君島さん!」

城見さんの声が聞こえる。

「どうしました!?」

「私たちのほかにも人がいます!」

人のいる気配など全く感じられないのだが……まさか本当に?

「隣から声が聞こえてくるんで話しかけてみたんです。そしたら男性の方が1人返事をしてくれました」

「本当ですか!?」

「ええ! しかもその人の話によると、隣にもさらに人がいるらしいんです!」

「君島くん! 起きとるか!?」

今度は江口さんが大声を出してきた。

「大変や! わしらの他にもぎょーさん人がおるみたいやで!」

オレたちはお互いに情報交換をした。 

それによるとここには10人ほどが一緒にいるということだった。

声のする位置から判断すると、5人が横並びで2列、5×2の配列で部屋が並んでいるらしい。

全員に共通していることは死を経験したということ、そして何故か暗闇の中にいること、それしか分かっていない。

と、その時だった。

今まで完全な闇だった空間が、真っ白な光に包まれたのだ。

「ま、眩しいっ……!」

突然のことに驚いたが、数秒後には元の暗闇に戻っていた。

(今のは一体……?)

オレはすぐに他の人たちに確認をとった。
どうやら他の部屋でも同じように明るくなり、またすぐに元に戻ったようだ。

「おい、君島くん……大変なことが起こったかもしらんで……」

江口さんが神妙な声で言った。

「一番端の部屋のやつが、何度呼びかけても返事せえへんそうや……」

それから何度も同じようなことが起こった。

突然部屋が明るくなり、そしてまた暗くなる。

これには一定の周期があり、暗闇だけが続く時間帯(8~10時間くらいだろうか?)と、たびたび明るくなる時間帯が繰り返されるようだった。

明るくなっている時間は毎回2秒から5秒程度。

そして、これが重要なことなのだが……明るくなったあと、稀に返事をしなくなる人が出るのだ。

いや、返事をしなくなるというのは正確ではないのかも知れない。話によると、どこかへ連れ去られてしまったようなのだ。

これまでにいなくなった人は全部で7人。1人ずついなくなることもあれば、2人もしくは3人同時にいなくなってしまうこともあった。

「結局この3人に戻ってしもたな……」

江口さんが力なく言葉を発した。

「今まで消えていったやつの順序を考えると、次はおそらくわしの番や……」

同じことを考えていた僕は、何も言うことができなかった。

運命に抗うことはできないのだろうか。予期していたとおりにそれは起こった。

「光だ……」

次の瞬間、隣の部屋から声が聞こえてきた。

「うわーっ!!! な、なんや、部屋が…… 部屋が浮いとるんかっ!?」

「江口さんッ! 大丈夫ですかっ!???」

「き、君島くんっ!!! なんやこれは!? 部屋ごとどこかへ連れて行く気かっ!??? どうなっとるんや! クソがあああ!!!」

その1秒後、叫び声はドアを閉めたかのようにパタッと聞こえなくなってしまった。周囲はもとの暗闇に戻った。

「君島さん! 江口さんは……江口さんはどうなったんですかっ!?」

城見さんの今にも泣き出しそうな声が聞こえてくる。

「どこかへ……連れて行かれた……」

「そ、そんな……」

「次はおそらく……オレの……番です」

何もできない。

暗闇の中、ただ待つことしかできない。

この部屋は一体何なのか? なぜオレたちはここにいるのか? 連れて行かれた先には何があるのか?

結局何も分からないままだ。

(ちくしょう……何なんだ……こんな意味不明なことが続くなんて……)

オレはもう考えるのを止めた。
考えてどうなるものでもない。とにかく時間が過ぎるのを待つしかないんだ……

虚無の空間に閉じ込められ続けている。
もはやそれが数分なのか、数時間なのかさえ分からない。

いつものように光が差し始めた。
闇は反転し、すべてを浄化するかのような白に染まってゆく。

部屋がぐらりと大きく傾きながら、浮かび上がるのを感じた。

「城見さん、お別れです……」

「き、君島さんっ! わ、私も一緒に連れて行かれるみたいです……」

「城見さんも!?」

「でも良かった……私、最後の1人になってたら、きっと耐えられなかったと思うから……」

「そうですね……オレも、城見さんと一緒で、良かった……」

ガンッ!!! ガンッ!!!

「な、何だっ!?」

ふいに外から強い衝撃を受けた。脳が揺さぶられるほどの強烈さ、どうやら部屋が何かにぶつかったらしい。

見ると壁の一部に亀裂が入っている。

(ここから出られるのか!?)

と思った次の瞬間、部屋はまっぷたつに割れ、オレは外の世界に放り出された。

明るい光の下、久しぶりに自分自身を見た。しかしそれは見慣れた姿では無かった。
手も足も無い、ドロリとした透明なひとかたまり。まるでスライムだ。中心にはオレンジ色の核?のようなものまである。

(これがオレ……なのか?)

「君島さーん!」

上空からオレと同じ姿のものが降ってくる。

「まさか城見さん!?」

「そ、そうです。私たちは一体どうなってしまったんでしょうか……」

「分からない……それにこの真っ白な地面、一体どこに放り出されたんだ……」

「君島さん! 上を見てください!!!」

「上?」

見上げたと同時に、真っ白な液体が大量に流れ込んできた。

「う、うわあーー!」

2人してその白い液体に飲み込まれてしまった……

すると、どこからともなく巨大な金属の棒の集合体が現れ、オレ達をかき混ぜ始めた。

何度も、何度も。ぐるぐる、ぐるぐると。

オレ、城見さん、白い液体、白い地面……それら全てが混ざり合う。

そしてそのまま熱い大地の上に流し込まれた。

(温かい……なんて気持ちが良いんだ……)

まるで風呂にでも浸かっているかのようだ。こんなにも心が安らいだのはいつ振りだろうか。

(君島さん……)

城見さんの意識が流れ込んでくる。オレたちはお互い溶け合って1つになった。

(オレたち……)

(私たち……)

((こんなにもふかふかに固まってしまったあああ!!!))

一体となったオレたちは、そのままスルリと別の場所へ移された。頭上にやさしい香りがするものが乗せられる。

(オレ、この匂い知ってる……)

(ええ、私も……)

(これはバターとメイプルシロップの匂い……)

(オレたちは……ホットケーキになったんだ!)

「ぉおーい!」

聞き覚えのある声に気付き、意識を向ける。

「わしや! また会えるとは思わんかったで!」

そこにはつるりと輝く、美味しそうなゆで卵があった。

『転生したら冷蔵庫の中の卵だったの話』

(完)

以上、お気付きだろうか? 登場人物の名前が黄身、白身、eggになっていることに……と言いたい北村がお送りしました。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします。