HAKU 北村 コラム 36「桃太郎の話」
普段は靴職人、北村です。
今回は昔話をします。
『桃太郎』
むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんがいました。
おじいさんは山へ柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。
おばあさんが洗濯をしていると、大きな桃が
「どんぶらこ、どんぶらこ」
と流れてきました。
「なんと大きな桃じゃろう」
おばあさんは桃を持ち帰り、おじいさんと一緒に食べることにしました。
桃を切ろうとしたそのとき、中から元気な赤ん坊が飛び出てきました。
「なんとまあ」
おじいさんとおばあさんはその赤ん坊に「桃太郎」という名前を付け、大事に育てました。
月日は流れ、桃太郎は力持ちで気の優しい、立派な男の子に成長しました。
第二章
一方そのころ都では、化け物が人を喰らい、財宝を奪うという事件が起こっていた。
人々はその者をこう呼び、恐れた。
「鬼」と……
鬼については、ほとんど何も分かっていない。
個体数はどれくらいいるのか? 知性はあるのか? 繁殖するのか? だとすればその方法は?
分かっているのは「人を食う」ということ……ただそれだけである。
世間を揺るがすこの鬼の話は、桃太郎が住む村にも届いていた。
「おじいさん、おばあさん、私は鬼を征伐しに行こうと思います。持って生まれたこの力、その為にあるような気がしてならないのです」
「桃太郎や、お前ならそう言い出すのではないかと思っておったよ。道中腹が空かないよう、きびだんごをこしらえてあげよう。」
「ありがとうございます、おばあさん」
「ハッハッハ、ばあさんのきびだんごを食べれば千人力じゃ! どれ、わしからは “おにぎり” をくれてやろう」
おじいさんはそう言うと一本の刀を差し出した。
「これは……?」
「若い頃、わしは刀鍛冶をしておった。磨き上げた己の技術を注ぎ込み、最後に作った刀がこれじゃ。名を “鬼切丸(おにぎりまる)” と言う」
「鬼切丸……ありがとうございます、おじいさん」
こうして桃太郎は鬼の情報を集めるため、都へと旅立った。
第三章
「ちょっとあんた、桃太郎ってんだろ?」
ふいに声を掛けられ、桃太郎は振り向いた。
そこにいたのは一匹の犬。後ろには猿とキジも控えている。
「そうだが何か用か?」
「我ら三匹はいずれも飼い主を鬼に殺された者。鬼への復讐を誓い合った仲間だ。あんたは鬼退治に行くと聞いている。手を貸すぜ、オレたちを一緒に連れて行く気はないかい?」
「それは気の毒な話だ。しかしこれは危険な旅になる。私は一人でやると決めているのだ」
「ハハッ、ずいぶんと殊勝な心掛けだな。まあいい、オレたちは勝手にあんたについて行くぜ」
「死ぬかもしれないのだぞ……?」
「復讐を誓ったその日に己の命は捨てた! 我らの望みは鬼を征伐すること、ただそれだけだ!」
「そうか……。分かった、ならば一緒に行こう」
「本当か!? じゃあオレたちは今から同じ目的を持った兄弟だ。杯を交わそうじゃないか」
「あいにく酒は持っていない」
「あんたのお腰につけたきびだんご、それが酒の代わりだ!」
第四章
「見えた! あれが鬼ヶ島に違いないわ!」
上空から見張りをしていたキジが声をあげた。
都で得た情報をもとに船で海へ出て三日目、ついに鬼ヶ島を発見したようだ。
「すぐに乗り込むのか? 桃太郎」
いつでもいいぜとばかりに犬が問いかける。
「いや、もうすぐ日が沈む。夜はキジの目が利かないので戦うには不利だ。朝になるとこのあたりは霧に包まれる。それに乗じて上陸しよう」
波の音だけが聞こえる暗闇の海上で、明朝の出発に備え休息をとることとなった。見張りのキジと漕ぎ手の犬は疲れていたのか、早々に眠りに落ちてしまった。
「桃太郎さん、あなたはどうして鬼退治をしようと思ったのですか?」
眠れないのか、猿が話しかけてきた。
「理由など無いよ……ただそれが私の使命のように思ったのだ」
「使命?」
「実は私は桃から生まれたのだ。人の姿をしてはいるが、おそらく違う生き物なのだろう。力だって人よりもずいぶんと強い」
「桃から……!? 人では無い……!?」
「ああ。そして同じく人ならざる鬼という生き物が、世を混乱に陥れている。人では太刀打ちできない強大な力を持って。私はそれに何か運命のようなものを感じているのだ」
「なるほど……そうだったんですね」
「さあ、私達も寝よう。明日は早いぞ」
「はい!」
(鬼……私と同じ人にあらざる者。私はそいつに会えるのを楽しみにしているのだろうか……?)
第五章
「やあやあ、我こそは桃太郎! 鬼よ! いざ尋常に勝負せよ!」
鬼切丸を構えた桃太郎の前に、身の丈十尺(約3メートル)はあろうかという異形の者が立っている。姿形は人に似ている。違うのは額から生えた長い角と、燃えるような赤い皮膚である。
恐ろしいその姿に反し、鬼は静かに話し出した。
「桃太郎……と言ったな。お前はなぜ私に勝負を挑む。私を殺しに来たのか?」
「お前は人を喰らい、財宝を奪っているだろう! そういう者を私は放ってはおけぬ! だからここへ来た!」
「なるほどな。しかしなあ桃太郎、私にとって人間は食べ物なのだ。食わなければ死んでしまう。許してはもらえぬだろうか?」
「黙れ! 許せるわけがないだろう! ここにいる犬、猿、キジの主人もお前に殺された!」
「それは気の毒な話だ。だが私は飯を食っただけなのだ。人間も、犬も猿もキジも、他の生き物を食うのではないか?」
「そ、それは……」
「それに我が種族は今や私一人となった……この哀れな生き物をお前は殺すと言うのか?」
「ぐっ……」
「だとすると、私は種族の生き残りをかけてお前を殺さなければならない! もうすぐ……もうすぐなのだ! 再び我らが……!」
「……!!!」
第六章
「桃太郎さん……」
静かな眼差しで海を見つめる桃太郎に、猿が声を掛ける。
「私はこの世に生きる者は全て、命を繋ぐために生きていると思うんです。あなたも、鬼も、ただそれを全うし、そして……あなたが勝った」
「……ああ。後悔はしていない」
「さあ、やつに奪われた財宝を回収して帰りましょう」
「……そうだな」
桃太郎たちは鬼が住んでいたであろう家を調べた。が、話に聞いていた財宝などはどこにも見当たらない。
「見つかりませんね……どこかに隠してあるんでしょうか?」
「財宝には人間や鬼の臭いが付いているはずなんだがな……オレの鼻でも見つけられねえ。本当にあんのかよ? なあ、桃太郎?」
「わからない……もしかしたら鬼は本当に人を食っただけで、財宝を奪ってはいないのかもしれない……」
そのとき、家の裏からキジの声がした。
「みんな! こっちへ来て!」
声のもとへ向かうと、そこは小さな畑だった。あの鬼が育てていたのだろうか、何本かの木が植えられている。
木にはたくさんの実がなり、周囲は果実の甘い匂いで満たされている。
ただ、その光景は普通のものとは違っていた。いや、異様であると言ったほうがよいだろう。
なぜなら、その実というのが「不気味なほどに大きな桃」だったからだ。
「一体何だってんだ……こりゃ……」
犬が思わず言葉を漏らす。そしてそのあと、無言で桃を見つめる桃太郎の異変に気付いた。
「桃太郎……大丈夫か……? ずいぶんと顔が赤いが……それにその額……さっきの戦いで出来たコブ……なのか……?」
完
以上、書き終えて「何この話???」と思った北村がお送りしました。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。