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HAKU 北村 コラム 34「咀嚼音の話」

普段は靴職人、北村です。

食事のときにクチャクチャ音出しちゃう人いるじゃないですか?

「クチャラー」とか言われて、嫌悪されることが多いと思うんですけど、

なんでそんなに嫌われてるんですかね?

いや僕もね、一緒に食事してる人が咀嚼音丸出しだったら「クチャクチャ聞こえるな」
と思って、若干むむむ……ってなるとは思うんですよ。

でもそれって

「食事中に音を立てるのは良くないこと」

っていう考えがあらかじめ頭の中に入ってるからって気もするんですよねー。

そういう思考が無ければ、他人の咀嚼音も気にならないだろうし、自分も気にせずクチャクチャ音を出すんじゃないかなあ、と。

うちには5歳の娘がいるんですけど、食べるときペチャペチャと音を出してるんですよ(かわいい)。

つまり人間って、気をつけなければ基本的に咀嚼音が出ちゃうものなんじゃないかと思うんです。僕自身も行儀が悪いことだと教えられてから、口を閉じるよう意識し出した記憶があります。

なので「食事中にクチャクチャ音を立てるのは良くない」ってのは、マナーとして作り上げられたものだと思うんです。

マナーとは「社会生活を円滑にするためのあり方(処世術)」だと考えているんですけど、この「食事中に音を立てない」というマナーは一体いつから存在しているのか?

気になって調べてみました。

まず平安時代の『衛生秘要抄(えいせいひようしょう)』という本に「食事の席では会話をしない、話しながら食べると胸や背の痛みを患う」といった内容の記述があるそうです。

ただこれはマナーというよりは衛生のためみたいですね。コロナ禍の現代では良く理解できる観念です。

確実な記録としては、鎌倉時代、道元によって書かれた『赴粥飯法(ふしゅくはんぽう)』があります。これが日本の食事作法の原点となっているみたいです。

この本の中で既に、肘をつかない、音をさせてものを食べてはならない、などが規定されております。著者の道元が中国から持ち込んだ作法のようです。

ただ、道元は禅僧なので、この本の作法も “禅宗寺院における食事作法” となっております。要は修行僧の心得ってことですね。

その後、室町時代から江戸時代にかけて食事作法を記した本が無数に発行され、民間にも浸透していったという流れです。

ただねー、こう見ると「食事中に音を立ててはいけない」ということに論理的な理由は無い気がするんですよね……

『赴粥飯法』以前の日本人はそんなの全く気にしてなかったでしょうし、こんなマナーができたのは完全に道元のせいな気がする……

しかしながら、今日の日本に定着しているのを見ると多くの人に受け入れられたというのもまた事実なのでしょう。

でもさー、

「そのマナー、本当に必要ある?」

って疑うことも必要じゃないですか?

例えば「出された料理は残さず食べる」ってマナーあるでしょ? あ、これも道元の本に書いてあるみたいなんですけど。でも最近の考えだと「無理して食べない」のほうが主流じゃないですか?

健康のこと考えたらそうしたほうが良いですもんね。

そもそもね! 道元が学んだ中国では、出された料理を全部食べることは、もてなしが粗末だったって意になるからマナー違反って聞きますよ! どうなってるのよおお!!!

話が逸れました。

ではここで最初に戻って、クチャクチャ音が出ちゃう理由について考えてみましょう。

・顎の形状(噛み合わせ)の問題で音が漏れやすい

・鼻呼吸が苦手で、食事中も口を開かざるを得ない

・唾液の粘度が高く、ねちゃっとした音が出やすい

・食べ方の習慣(口に入れる量、噛む位置など)による

・マナーとして認識はしているが、うっかり出てしまう

・そもそもマナーとして認識していない

以上を踏まえ、クチャクチャ音の是非を論じる前にまず認識しておくべきなのは、

「身体の作りには個人差があるので、咀嚼音が出にくい人と出やすい人がいる」

ということと、

「幼少期からの習慣や環境も人それぞれなので、マナーとしての強度も一律ではない」

ということでしょう。

これを認識しておかないと相互理解に支障をきたすと思うんですよね。

あと前述したとおり、僕は「マナーとは社会生活を円滑にするためのあり方(処世術)」だと考えているので、他人に強要するものでも無いなあと思っています。

だからこそ不快に感じても指摘しづらく、イライラが募る人も多いのかなあと感じます。

次はクチャクチャ音を嫌がる理由について考えてみましょう。

1つは「ミソフォニア(音嫌悪症、音恐怖症)」というのがあるそうです。

これは特定の音に対して否定的な感情(怒り、逃避反応、憎しみ、嫌悪)が引き起こされる医学的な障害だそうです。

ただ、これに関しては飽くまで障害であり、咀嚼音が一般的に嫌悪されている理由とは分けて考える必要があると思います。

咀嚼音自体に人間を不快にさせる要素(周波数とか)があるのかとも考えましたが、YouTubeを検索すると咀嚼音を楽しむASMR動画なども多数存在しており、そういうわけでもなさそうです。

また、おじさんの咀嚼音と美女の咀嚼音では感じ方も変わりそうなので、対象となる人にどんな感情を持っているかも条件になりそうだなと感じました。動物の咀嚼音を愛でる動画なんかもありましたよ。

個人的な考えを言うと「食事中にクチャクチャ音を立てるのはマナー違反なのに、なぜそれを守らないのか」という感情が一番の原因になっているのではないかと思います。

要するに「守るべきことを怠っている」ことへの怒りです。

これは、

・道元にまで遡っても「食事中に音を立ててはいけない論理性」が見つからない

・咀嚼音を好む人も存在し、生物学的に嫌われる音というわけでもない

この2点から導いた答えです(消去法的ですけど)。

そんなわけでね、僕は「食事中に音を立ててはいけない」ってマナーは無いほうが、みんな幸せなんじゃないかなーと思うんですよ。

少なくとも他人のクチャクチャ音にイライラする人はいなくなりそうだし(ミソフォニアの人には配慮するとして)。

そもそもマナーって結構いい加減だと思うんですよねー。

蕎麦をすする音って海外から見たらマナー違反なんでしょ? 日本でだって本来はマナー違反だったはずなんですよ、これ。

でもなぜか “粋” ってことになって見逃されてますけど!

いや、見逃されて良かったと思うけど!

他との差異が文化になることもあるってことだよね!

とは言え世間に根付いてるマナーも数多くあり、それもまた文化だと思います。

なので娘には「なんか食事のときは口を閉じて噛んだほうが音が出なくて良いみたいよ」って教えようとは思いますよ。

でも同時に「音が出てる人がいても、それは別に大したことじゃないよ」ってのも教えたいなあとも思うんです。

と、そんなことを考えてたら、クチャクチャ音だけで1つのコラムが誕生したのでした。

以上、「咀嚼」って漢字、読めるけど書けないなあと思った北村がお送りしました。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします。