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HAKU 北村 コラム 31「くら寿司の話」

普段は靴職人、北村です。

「今日はお寿司の気分である」

私は食への関心が薄いほうだと思う。とはいえ「今日は○○が食べたい気分だなあ」と思うことはある。

特にハンバーガー、ラーメン、お寿司の3種は食べたくなる頻度が高い。アメリカ、中国、日本の食文化を行ったり来たりする食のトラベラーなのだ。

今日もそろそろ昼食の時間。心の奥底にある欲求と対峙する時間である。

「何が食べたい? 己を見つめるのだ」

初夏。気温も日に日に高くなり、さっぱりしたものを求めるのは道理。

ゆえに今日はお寿司の気分なのである。

バタン。

車に乗る。大きな女性1人と小さな女性1人と共に出発。

行き先は「くら寿司」。それは回るお寿司屋さん。

走ること10分、蔵を模したお店に到着。のれんをくぐってドアを開けると、すぐにカプセルトイの自動販売機(ガチャガチャ)のお出迎えである。

同伴の小さき女性が目を奪われる。

「あとでね」

そう言ってその場から引きはがし、自動ドアを通って入店する。

店内にはタッチパネル式の案内機があり、ピピッとテーブル席を指定。コロナの影響もあり、店員と会話することなく座席への誘導が完了するシステムとなっている。

2人が席につくと私はセルフサービスの飲み物を準備する。お寿司といえば熱々の緑茶であるが、今日の気温は30度近い。冷水一択だろう。

サーバーは離れた場所にあるので歩いて取りに行く。一緒にお手拭きや小さき女性用のお椀・スプーンも入手した。

席に戻るとテーブルの上には「たまご焼き」のお寿司が乗った皿が2つ、3つ。小さき女性の好物である。

少し前までの彼女は、たまご焼きを排除し、シャリだけを食べるという贅の極みを尽くしていたのだが、最近は庶民の食べ方を覚えたようだ。ちゃんとネタとシャリを一緒に食べている。

「この前テレビで紹介されてた技、試してみようかなー」

大きな女性がそう言いながら何かを注文した。ほどなくして専用レーンに品物が届く。スターバックスコーヒーなどでおなじみの、飲み口付きのフタが付いた紙コップだった。

(飲み物……?)

戸惑う私を横目に、大きな女性はそれをお椀に注ぎ始めた。

「この出汁の中にうなぎのお寿司を入れたら、ひつまぶしみたいになるんだって」

飲み物だと思っていたのは「くら出汁」という商品であった。以前から存在は把握していたが、一体誰が注文するんだ??? と不思議に思っていた一品だ。

そして予告通りのうなぎ……ではなくあなごを投入。大きな女性はうなぎよりあなごが好きなのだ。私も同意見なので、この機転には心の中で賛辞を送った。

「んっ! おいしっ!」

すぐさま歓喜の声が飛び出した。

どれどれ……と私も一口いただく。

(こ、これは……うまいっ!)

ネタの種類は多々あれど「寿司」という枠からは出ることができなかったもの達が、この出汁1つで全く別の料理へと生まれ変わってしまった。まさにコロンブスの卵的発想である。多少のマンネリを感じていた私のくら寿司ライフに一条の光が差し込んだ瞬間であった。

小さき女性にも食べさせると「おいしい!」と喜んだ。さらにはたまご焼きのお寿司に出汁をかけるという技も開発していた。

(今日のくら寿司は好スタートだな)

そう、まだ昼食は始まったばかりである。ここからは自分自身で道を切り開いていかねばならない。いかに今日がお寿司の気分といえども、ひとたびメニューの選択を誤れば満足できずに終わってしまうのだ。

1皿目……流れてくる皿にじっと目を凝らす。

(これだっ!)

「とろサーモン」を静かにテーブルに置く。

通常のサーモンよりも淡いオレンジ色。舌触り滑らかでとろけるような食べ心地。それがとろサーモン。

ぱくり。

少しの醤油を乗せたそれを口へと運ぶ。
いつ食べても期待を裏切らない。うまい。

2皿目。

狙いはすでに定めている。「あなご」だ。
私が好きなネタの上位2種はとろサーモンとあなごである。まずこの2つを食べるのがお決まりなのだ。

タイミング良くあなごが回ってきた。
うまい。やはりうなぎよりもあなごである。

(今日は流れが良いな)

と、そう思った。日によっては好みのネタがなかなか流れてこない場合がある。それが回るお寿司屋さんである。

「そんなときはタッチパネルで注文したら良いではないか?」と思われるかもしれないが、私はなるべく回っているお寿司を食べるようにしている。ある程度の時間レーンを回っているお寿司のほうが美味しいからだ。

レーンを周遊している魚は身が引き締まり味も良くなる……というわけではなく、単純にネタの解凍が進んで滑らかになるというのが理由である。

店が混んでいる場合は、この違いが顕著だと思う。そんなときにタッチパネルで注文すると、冷え冷えシャリシャリのネタが乗ったお寿司が届くことが多い。それが回るお寿司屋さんなのである。

3皿目。
再び「とろサーモン」。今日の私はサーモンを求めている。

4皿目。
「サーモン レアステーキ風」。新メニューで変化をつけて、

5皿目。
「イベリコ豚の大とろ」。変化球。一旦濃い味を組み込む。

6皿目。
「徳島県産 レモンはまち」で再び魚の口に戻し……

7皿目、8皿目。
「いか天」「えび天寿司」のダブル天ぷらで満腹感をプラス。

9皿目。
「あなご」再び。例の出汁をかけてひつまぶし風に。

10皿目。
「おいもDEホイップ」。デザートは大学いもにホイップクリームを添えて。

(ふぅ、満足満足……)

今日のメニュー構成は我ながら完璧であった。勝因は多めに食べたサーモン、イノベーションとなった「あなご+くら出汁」、締めのデザート「おいもDEホイップ」のバランス感にあると考える。

「おいもDEホイップ」は初めて食べたのだが、量もほどよく、ポイップクリームの存在が特別感を演出していて良い。これで110円(税込)なのだから優秀である。ちなみに大きな女性はこれを2皿食べた。

「ごちそうさまでした」

小さき女性の手には「ビッくらポン!」でゲットした『PUI PUI モルカー』のマグネットが握られている。

※「ビッくらポン!」とは食べ終わった皿を投入することで行え、当たると景品がもらえるくら寿司独自のゲームである。

会計を済ませ、自動ドアを抜けるとカプセルトイの自動販売機が見送りに並んでいる。

小さき女性が目を奪われる。

「これ300円もするからやめとこか?」

そう言ってその場から引きはがし、車に乗って家路についた。

以上、「まぐろ」は一切食べない北村がお送りしました。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします。